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名古屋高等裁判所 平成10年(ネ)559号 判決 1998年7月17日

控訴人・附帯被控訴人(以下「控訴人」という。)

乙川一郎

被控訴人・附帯控訴人(以下「被控訴人」という。)

甲野花子

右訴訟代理人弁護士

那須國宏

渡辺直樹

森美穂

主文

一  原判決を次のとおり変更する。

1  控訴人は、被控訴人に対し、九〇万円及びうち三〇万円に対する平成九年三月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  控訴人は、被控訴人に対し、平成一〇年から平成一五年までの間、毎年七月及び一二月の各末日限り三〇万円、平成一六年六月末日限り三〇万円、同年一二月末日限りの二〇万円を支払え。

3  控訴人は、被控訴人に対し、一〇〇万円及びうち二五万円に対する平成九年三月一日から、うち七五万円に対する平成一〇年六月一日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

4  控訴人は、被控訴人に対し、平成一〇年六月一日から平成二七年一一月一七日までの間、毎月末日限り一か月五万円の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は第一、二審を通じ、控訴人の負担とする。

三  この判決は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  当事者の求める裁判

一  平成一〇年(ネ)第四〇五号控訴事件

1  控訴人

(一) 原判決を取り消す。

(二) 被控訴人の請求をいずれも棄却する。

(三) 訴訟費用は第一、二審を通じ、被控訴人の負担とする。

2  被控訴人

(一) 本件控訴を棄却する。

(二) 控訴費用は控訴人の負担とする。

二  平成一〇年(ネ)第五五九号附帯控訴事件

1  被控訴人

主文と同旨

2  控訴人

(一) 本件附帯控訴を棄却する。

(二) 附帯控訴費用は附帯控訴人の負担とする。

第二  当事者の主張

次のとおり補正するほか、原判決四頁四行目から八頁二行目までの記載を引用する。

1  原判決五頁九行目から六頁九行目までを、次のとおり訂正する。

「(一) 弁済期の到来した慰謝料九〇万円及びうち三〇万円(平成八年一二月分)に対する弁済期後の平成九年三月一日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金

(二) 慰謝料として、平成一〇年から平成一五年までの間、毎年七月及び一二月の各末日限り三〇万円、平成一六年六月末日限り三〇万円、同年一二月末日限り二〇万円

(三) 弁済期の到来した養育料一〇〇万円及びうち二五万円(平成八年一〇月分ないし平成九年二月分)に対する弁済期後の平成九年三月一日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金、うち七五万円(平成九年三月分ないし平成一〇年五月分)に対する弁済期後の平成一〇年六月一日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金

(四) 養育料として、平成一〇年六月一日から平成二七年一一月二七日までの間、毎月末日限り一か月五万円の割合による金員」

2  同六頁一一行目の末尾に、「なお、控訴人の賞与は、勤務先の都合により、毎年遅くとも七月と一二月に支払われる。」と付加する。

第三  当裁判所の判断

一  本件合意の効力について

原判決八頁七行目から一一頁五行目までの記載を引用する。

二  養育料の給付請求について

養育料の請求は、民法上の扶養請求権に基づくものであるから、その程度又は方法については、まず当事者間で協議をして定め、当事者間の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、扶養権利者の需要、扶養義務者の資力その他一切の事情を考慮して、家庭裁判所がこれを定めることになる(民法八七九条)が、更に、右当事者間だけではなく、本件のように、扶養権利者である太郎の親権者として同人を養育する立場にある被控訴人(母)と控訴人(父)とが、右両者間において、被控訴人が太郎を養育するために要する費用の給付について合意をしたときは、その合意は私法上の合意として有効であり、これに基づいて民事訴訟によりその給付を請求することを否定する理由はない。もちろん、扶養に関する処分は家事審判事項であるから(家事審判法九条一項乙類八号)、右の合意がされた場合であっても、事情の変更があったときは、太郎からの又は太郎に対する申立てにより、その取消し、変更をすることが可能である(民法八八〇条)が、そうだからといって、控訴人と被控訴人との間の養育料に関する合意を民事訴訟において実現できないとする理由にならないことは明らかである。

したがって、養育料の請求にかかる訴えを不適法であるとして、これを却下した原判決は、これを取り消すべきであるが、本件につき更に弁論をする必要はないものと認める。

三  本件合意に基づく慰謝料及び養育料については、控訴人がその履行を全くしていないことや本件における応訴態度からすると、控訴人が今後任意にその履行をすることは期待できず、したがって、弁済期未到来のものについても、あらかじめその請求をする必要があるというべきである。

四  よって、本件控訴は理由がなく、本件附帯控訴は理由がある(ただし、当審において主文のとおり請求の減縮及び拡張した。)から、原判決を主文のとおり変更し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六七条、六一条を、仮執行の宣言につき同法二五九条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 渋川満 裁判官 河野正実 裁判官 佐賀義史)

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